俺が初めて花々里《かがり》に会ったとき、あの子はとても腹を空かせていた。
別にご飯が与えられていなかったわけではないというのは、花々里の母親から自分が早く帰れない日は、シッターを雇って夕飯の支度などをしてもらっている、という話を聞かされたから知っていた。 それでもシッターに馴染まずひとり寂しそうにしていることの多かった花々里を心配していた母親に、俺は名乗りを上げたんだ。 俺が行ってみてもいいですか?と。 花々里の父親の葬儀の時に見かけてからずっと、俺は何故だかあの女の子のことが気になっていた。 何であの子のことが頭から離れなくなってしまったのか、俺自身よく分からなくて。 村陰《むらかげ》さんの話のなかでしか知らないご主人とお嬢さんを見てみたかったからと言う、ある意味稚拙な興味本位で葬儀に出てしまったことへの罪悪感か。 それとももっと違う何かなのか。幼い頃から留守がちだった両親に代わって、俺の面倒を見てくれていた使用人の八千代さんにその話をしたら、「頼綱《よりつな》坊っちゃまが気になるのでしたら、もう一度そのお嬢さんにお会いしてみれば宜しいのですよ」とアドバイスされて。
「行くなら私も全力でサポートいたしますよ?」と謎のガッツポーズまでもらってしまった。八千代さんの力強い後押しを受けて、会えばそう言うのに答えが出るのかな?とか、つい思ってしまったんだ。
まぁ、結局その時には分からず終いだったのだけれど。
*** 「キミはどうしてごはんを食べないの?」 ひもじそうにアパート前の駐車場に座っている女の子を見付けてそう声をかけると、「ごはん、ひとりでたべるのイヤなの」って答えが返ってきて。 どういうことかと思ったら、家にはちゃんと夕飯は用意されているけれど、お母さんと一緒でなければ食べたくないと言う。